「冷や汗を掻かなくなりましたね」
「え?」
「あんなにも震えていたのに。今では平気みたいだね」
追った視線の先にある薄緑。ああ、"高い所"の話か。
「そうでしたっけ、覚えてないなあ」
薄緑の先を思えば決して慣れたワケではないけれど、あの時の自分を思い出すのは恥ずかしい。
精一杯の、強がりだ。


細筆が爪を滑る度にひやりとする感覚はいつまで経っても慣れない。
爪の美しくない人間は、その生き方も然り。
何度も聞いた先生の口癖。
それに習い整えたオレの爪を更に整えるのは、足りないと言うよりも実はオレの指に触れる為の口実で、嘘、だったりして。
「出来ましたよ」
なんて、そんなワケ、ないか。

『そうでしたっけ、覚えてないなあ』 『嘘、だったりして』をお題に140字で書きましょう。

 

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