事務所から出ると、冷たい風が頬を撫でた。
「寒いですね」
吐く息も白い。
「もう冬ですからね」
先生は鞄から鍵を取り出すと、手早く事務所を閉めた。
「さ、行きましょうか」
「はい」と言おうとした言葉は、「ぎゃっ!」という悲鳴に変わった。
「なんですか、突然声を上げて…」
「だ、だって…先生、その…手……」
先程まで感じていた寒さは、どこかに消えてしまった。
「たまには、いいでしょう?」
「で、でも…誰かに見られたら…」
「この時間なら大丈夫ですよ、オドロキくん」
慌てふためくオレとは対照に、穏やかに笑う先生。
更に増してゆく、熱。
「それとも…私と手を繋ぐのは、嫌かな?」
首をかしげる先生に、オレは勢いよく首を振る。
「そ、そんな事ないですっっ!!」
オレの返事にくすくす笑う先生。
オレは先生の、この笑顔がなによりも好きだった。
「なら…ね?」
「は、はい…」
繋いだ手を優しく握りしめる。
「君の手は温かいですね」
「あっ、オレ、寒い時手を握りしめる癖があって…」
「そうですか」
「先生の手は、冷たいですね」
告げてから失礼だったかなと思ったが、先生は気にしていないようだった。
「気温の変化に弱くてね。暖かい所から出ると、途端に冷えるんです」
「そうなんですか。でも、手が冷たい人は、心があったかいって言いますよね」
「なら君は、心が冷たいという事かな?」
「え?あっ……」
「ふふ…冗談です」
君があたたかいことは知っていますから。心も、手も。君の全てがね。
「せ、先生……っ!」 
先生は相も変わらず微笑んでいて。
冷えたままの右手を頬に当て、熱を冷まそうとした時。突然先生の歩みが遅くなった。
「先生?」
声を掛けても返事はなく、歩調を合わせ視線を前へと戻せば、先生の車が停まる駐車場まであとわずかだった。
理由が分かったオレの頬も緩む。


ああ、オレ、先生の事が、

もうどうしようもないくらいに、好きだ。

 

過去運営していたサイトにて掲載していた作品。データが残っていないので思い出しながら再執筆しました。
先生は無言で手を繋いでいたいアピするひと。オドロキくんは恥ずかしがりながらも口に出すタイプだと勝手に思ってます。

 

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